着物に描かれている様々な柄。普段、あまり見慣れない柄は、一見「何だろう?」と思うものもあるかも知れません。そこでここでは、いにしえより受け継がれてきた古典柄を中心に、その成り立ちの背景や、込められた意味をご紹介します。着物の柄をより詳しく知ることで、もっと素敵に袴姿を楽しめるようになるかも知れませんよ!
着物に描かれている柄には、どんな意味があるの?
日本ならではの服飾の特徴のひとつは、季節に応じてふさわしい生地や色、柄などの工夫がなされていることだそうです。その背景には、四季の変化を敏感に感じ取り、それぞれの美しさを愛でる日本人特有の感性が関係しているのでしょう。そのためか、着物に描かれてきた柄も、植物や動物、自然現象をモチーフにしたものが数多くあります。また、人が本質的に持っている、慶びや幸せを祈り祝う心が様々なかたちで意匠化され、着物の柄として定着していったものもたくさんあります。それらは吉祥文様と呼ばれ、昔から婚礼衣装や晴れ着など、おめでたい場面で身に着ける着物に多く描かれてきました。
雅やかな「御所車(ごしょぐるま)」は高貴の象徴
御所車(ごしょぐるま)とは天皇や貴族など、高貴な人が乗る牛車の名称で、応仁の乱以後、宮中の儀式にだけ用いたことからこの名がつきました。優雅な平安時代への憧れから生まれた王朝文様の代表のひとつで、江戸時代に入って盛んになった文様です。多くの場合、四季の草花や流水と合わせて用いられます。その雅やかな風情は現代でも好まれており、婚礼衣装や振袖など、晴れの日の着物に描かれる高貴な柄行きです。
末広がりの「扇(おうぎ)」は、発展や繁栄を願って
扇(おうぎ)は、末に向かって広がるかたちから末広とも呼ばれ、意匠化されたものは「扇文(おうぎもん)」や「末広文(すえひろもん)」と言います。末広がりの形状を発展や繁栄の意味になぞらえ、たいへん縁起の良い文様とされています。
着物の柄としては様々なかたちで意匠化されており、開いたもの、閉じたもの、半分だけ開いたものなどバリエーション豊富です。同じ形状のものを配置したり、異なる形状のものを組み合わせたり、地紙(扇の紙の部分)に華やかな柄が描かれていたり、なかには植物などを扇のかたちに模したものなどもあります。
繁栄や長寿の意味を持つ松を描いた「三階松(さんかいまつ)」
三階松(さんかいまつ)とは同じ大きさと形の松の枝葉を三層に重ねたもの、あるいは左右にずらして重ねたものを言います。この三階松もそうですが、松は着物の柄の中でも実に多様なかたちで意匠化されているモチーフです。四季を通して変わらず緑の葉を保つ常緑樹で、数百年、数千年もの樹齢を重ねて大木となることから神聖なものとみなされ、繁栄の象徴として古くから人々に親しまれてきました。長寿、延命の意味もあり、現代でも格調高い文様のひとつです。
慶事に用いられる「熨斗(のし)」は縁起の良い柄
熨斗(のし)は、熨斗アワビの形を表した文様です。熨斗アワビとは、アワビの肉を薄く削ぎ引き伸ばして乾かしたもの。それを紙の間に挟み、祝儀の進物や引き出物を贈る際に添えられました。現代で一般的に使われる熨斗紙や熨斗袋は、これを簡略化したものです。
意匠化された熨斗は、細長い帯状に束ねられており、帯の中には華やかな柄が描かれることも多くあります。慶事で使われる用途から、縁起のよい文様として広く好まれてきた伝統柄です。
お子様や成人前の女性の愛らしさを表す「手毬(てまり)」
手毬(てまり)は、ぜんまいの綿やおが屑を芯にして、綿の色糸を固く巻きつけたものです。江戸後期には五彩の絹糸で巻いた装飾的なものが作られ、それは御殿毬と呼ばれて流行しました。
意匠化された手まりは、幼児や娘の玩具として用いられたことと、色彩の華やかさと愛らしさから、子供や成人前の女性の着物に多く使われています。
広く愛される、優美な「雪輪(ゆきわ)」
雪輪(ゆきわ)は、植物が雪をかぶった姿を意匠化した雪持ち文の積雪の部分が次第に抽象化されてできた文様とされています。円形のベースに凹凸が表されており、まるで6弁の丸い花のように見える優美な文様です。雪輪の形状のみが描かれることもあれば、中に花々の模様を散りばめたり、大きく描くことで柄全体の構図を区切る要素として使われることもあります。
その優美なかたちから、振袖、留袖、小紋、帯などに幅広く使われ、また季節を問わず、夏の装いに涼を求めて使われることもあります。