生徒たちの門出を、厳かな袴姿で祝ってあげたい…という男性の先生のために、押さえておきたい袴スタイルのポイントをご紹介します。TPOをきちんとわきまえた、式典にふさわしい着こなしをして、先生が生徒たちの晴れの日に華を添えてあげましょう。
着物と袴の「種類」について
普段、着物を着る機会がほとんどない昨今では、なかなかピンと来ない話かも知れませんが、着物には格付けがあり、それぞれの格によってふさわしい着用シーンが異なります。大きく分けると、式典や儀式などの改まった場面で着用するフォーマルな着物と、お友達との集まりやショッピングなど日常的な場面で着用するカジュアルな着物があり、卒業式のような学校行事の中でも特に厳粛な場面では、カジュアルな着物はふさわしくありません。結婚式に列席するのに、Tシャツやデニムのような普段着はTPOを配慮するとふさわしくない、というのと同じことです。
卒業式に臨まれる男性の教職員の場合、年齢に関係なく男性の正礼装とされる「黒紋付羽織袴」が最もふさわしいと言えるでしょう。黒紋付羽織袴とは、黒無地に五つ紋が入った着物と羽織に、仙台平の縞柄の袴を合わせたスタイルです。
成人式などでは、ひとつ格が下がる準礼装の袴スタイルも一般的で、さまざまな色や柄を組み合わせたデザイン性が高いカラフルな色紋付もありますが、卒業式という厳粛な式典であること、そして主役は生徒たちであることを考慮すると、洋装でもブラックフォーマルを着用するように、やはり和装でも最も格式の高い黒紋付がベストだと言えるでしょう。
着物の「紋」と「格」について
背中や胸の部分に紋（家紋）が入った着物を見たことがある、という方は多いかと思います。では、この「紋」と先述した着物の「格」に大きな関係があることはご存知でしょうか？
紋には一つ紋、三つ紋、五つ紋の3通りがあり、入れる場所と位置が決まっています。背面の中央上部に背紋が入っているものが一つ紋、それに加えて両後ろ袖に袖紋が入っているものが三つ紋、さらに両胸に抱き紋（胸紋）が入っているものが五つ紋です。そして紋の数が多いほど格は高くなります。
しかし、紋は入れれば良い、多ければ良いという訳ではなく、着物の格に合わせて入れるものです。ですので、正礼装に入れるのは五つ紋。それに次ぐ格の準礼装に入れるのは三つ紋か一つ紋、その下位の略礼装には入れても一つ紋という具合になります。準礼装や略礼装の場合は、着物と羽織の両方ではなく、羽織に紋が入っていれば大丈夫ですが、お茶会のような席では羽織を着ないスタイルもありますので、その場合は考慮が必要です。
なお、卒業式で先生が着る黒紋付羽織袴は、最も格の高い正礼装にあたりますので、着物にも羽織にも五つ紋を入れるのが正式です。（羽織を着ると見えない着物には省略される場合もあります。）お手持ちの着物や羽織がある場合も、レンタルをされる場合も、五つ紋が入っているかどうか必ずチェックしてください。
着こなしの「ルール」について
卒業式に男性の先生が着るならば、五つ紋の入った黒紋付羽織袴がふさわしい、ということはご理解いただけたかと思いますが、着物・羽織・袴だけあっても着付けは完成しません。
肌着の上、着物の下に着用し、着物が汗や垢で汚れるのを防ぐ「長襦袢」や「半衿」、長襦袢や着物を着付ける際に使用する「腰ひも」、着物の上から締める「角帯」、羽織の前がはだけないように留める「羽織ひも」、そして足元には「足袋」と「雪駄」が必要で、手に「白扇」を持ってはじめて完成します。
着物や羽織に五つ紋を入れるというルールがあるように、正礼装の場合、これらの小物類にも気を付けたいルールがあります。好きなものを自由に組み合わせてコーディネートする、というのはTPOからずれた着こなしになりますし、言い換えれば、式典の場や列席者に礼を欠いた装いということになるので注意しましょう。
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長襦袢・半衿
正礼装の場合は、衿も身頃も白色のものを着用するのが習わしです。（着物を着ると見えない身頃は、薄い色がついている場合もあります。）半衿も白色のものを使用します。グレーや黒の半衿もありますが、正礼装には使わないので注意しましょう。
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角帯
無地または紋織、献上柄など、柄を織り出した角帯を着用するのが一般的です。
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羽織ひも
丸組または平打ちの白色のものを使用します。グレーや黒は喪服用とされています。
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足袋・雪駄
白足袋を履き、鼻緒が白色の雪駄を履きます。鼻緒の色については、慶事は白色、それ以外は黒色とされています。
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白扇
装飾品としての役割が大きく、手に持って使います。季節に関わらず必要です。
最後に
ご紹介した黒紋付羽織袴の着用ルールは「なんだかややこしい…」「なんでそうなの？」と感じるものかも知れません。ですが正礼装とは、その場面とそこに居合わせる人すべてに対して礼を尽くす気持ちを表すものです。立派に巣立っていく生徒とその親御さんたちへの祝福の気持ち、そして学生生活をサポートしてくれたその他の先生方への感謝の気持ちを込めて、黒紋付羽織袴を正しく凛々しく着こなしてください。
