卒業の時を迎え、立派に巣立っていく生徒たちを袴姿で見送ってあげたい…と考えている先生のために、卒業式の袴に関する疑問を詳しく解説。そもそも先生は卒業式に袴を着用しても良いのか、着用する場合にはどんな着物や袴を選ぶべきか、どんな着こなしをすれば良いのか、今ある不安をスッキリ解消して卒業式を迎えましょう!
(※この記事は2017年10月31日に公開したものを加筆修正しました。)
【目次】
- ▼ 卒業式の衣装として、先生が袴を着用しても問題ない?
- ▼ 手持ちの着物や好みの着物など、何を着てもいい訳じゃないの?
- ▼ フォーマルな着物には、必ず紋を入れないとダメなの?
- ▼ 学校での立場に応じた着こなしを具体的に知りたい!
- ▼ 小物のコーディネートは、好きなようにしていいの?
- ▼ 髪型はどんなスタイルがいいの?気を付けるべきことは?
- ▼ メイクはいつも通りで大丈夫?気を付けるべきことは?
卒業式での「袴の着用」について
Question (1)
卒業式の衣装として、先生が袴を着用しても問題ない?
卒業式の定番スタイルになっている袴姿ですが、卒業生を見送る側の先生が着用してもいいものか…?と疑問を感じる方は少なくないようです。解説を後回しにして先に答えをお伝えすると、先生の着用も全く問題なし。普段の先生とは違った雰囲気の袴姿は、生徒たちの門出に華を添えることになるでしょう。
ではここからは、卒業式における先生の袴着用について詳しく解説します。そのために、まずは袴が辿ってきた歴史をご紹介。今から遡ること1,000年以上前の平安時代、宮廷に支える女性は袴を身につけていたそうです。袴は、身分の高い女性の衣服として着用されていたのです。その後の江戸時代は、身分や性別によって身なりが厳しく定められた時代でしたが、この時も宮廷の女官たちだけは袴を身につけることが許されていました。そして明治時代に入ると、華族や上流家庭の子女が通う女学校の制服として袴が採用され、学校では生徒だけでなく教師も袴を着用していたそうです。着物のように裾が乱れにくく、動きやすいという機能面に加え、優美さと礼容を兼ね備えた服装だったことも、袴が採用されたポイントだったようです。
このような歴史的な背景があることから、袴は学業の場との結びつきが深まったのだと思われます。そして現在でも、学校の重要行事である卒業式に見合った服装として受け継がれているのでしょう。この由来から考えると、袴は卒業生だけでなく先生にとってもふさわしい衣装と言えるでしょう。
Answer (1)
袴は、学問の場と結びつきが深い服装。
先生が卒業式に着用する衣装としても問題なし!
着物の「種類」について
Question (2)
手持ちの着物や好みの着物など、何を着てもいい訳じゃないの?
日頃から和装に慣れ親しんでいる方は別として、そうではない多くの方にとって、TPOに応じた着物の選び方はちょっと難しい問題かもしれません。実際、袴のレンタルカタログやWebサイトを見てみると、多種多様なデザインの着物があり、「好みのものを選べばいいんだ!」と思ってしまうのも無理はありません。
ですが、着物には柄づけの違いによる「種類」があり、それぞれに「格」というものが存在します。大きく分けると、式典や儀式のような改まった場で着られるフォーマル着物と、お友達同士の集まりやショッピングなどのお出かけといった日常の場で着られるカジュアル着物に分けられますが、卒業式のような学校行事の中でも特に厳粛な場では、カジュアル着物はふさわしくありません。ですので、着物なら何を着てもOKという訳にはいかないのです。
卒業式に臨まれる先生の場合、袴姿に合わせる着物の格としては正礼装~準礼装にあたるものが良いでしょう。具体的な種類で言うと「色留袖」「振袖(小振袖)」「訪問着」「色無地」といったあたりです。このうち、振袖は未婚女性が着る正礼装です。また、袖丈の長さにより大振袖、中振袖、小振袖に分類されますが、卒業式の場合は二尺袖とも呼ばれる一番袖丈が短い小振袖が一般的です。大振袖は婚礼衣装、中振袖は成人式衣裳としてよく着られるもので、厳かな卒業式には華やか過ぎてしまいますので避ける方が無難と言えるでしょう。
Answer (2)
卒業式の袴姿に合わせる着物の種類は
「色留袖」「小振袖」「訪問着」「色無地」が一般的!
着物の「紋」と「格」について
Question (3)
フォーマルな着物には、必ず紋を入れないとダメなの?
大多数の人が、背中や胸の部分に紋(家紋)が付いた着物を見たことがあるかと思います。ただ、紋が付いた着物は格式が高く、フォーマルな場面向きという認識はあっても、それ以上はよく分からない…という人が多いのではないでしょうか。
紋は、一つ紋、三つ紋、五つ紋の3通りがあり、入れる位置と数が決まっています。背面の中央上部に背紋が入っているものが一つ紋、それに加えて両後ろ袖に袖紋が入っているものが三つ紋、さらに両胸に抱き紋(胸紋)が入っているものが五つ紋です。そして紋の数が多いほど格は高くなり、より改まったフォーマルな場面にふさわしいものになります。ですが、紋は何にでも入れれば良い、多ければ良いという訳ではなく、着物の格に合わせて入れるものです。例えば、最も格の高い正礼装には五つ紋を入れますが、それに次ぐ格の準礼装に入れるのは三つ紋か一つ紋、その下位の略礼装には入れても一つ紋です。
先の段落でご紹介した、袴に合わせる着物を格の高い順番に並べると、色留袖、小振袖、訪問着、色無地となります。中でも色留袖は最も格が高く、比翼仕立てにして五つ紋を入れることができます。ですが、幅広い場面で着られるように、あえて三つ紋や一つ紋にする場合もあります。小振袖や訪問着は、柄つけの豪華さから紋を入れなくても正装、盛装と認められるため、省略するのが一般的ですが、背紋の周辺に柄がなく紋を入れて映えるのであれば、一つ紋にする場合もあります。色無地は、その名の通り柄のない無地の着物で、無紋で着ることも多いですが、三つ紋や一つ紋を入れて格高に装う場合があります。1つでも紋を入れると、無紋の訪問着より格上になり、三つ紋の色無地は一つ紋の訪問着より格上になります。
卒業式に袴姿で臨む際、その人の立場によって格式高く装う必要がある場合があるかと思いますので、着物の種類と紋の数の参考にしてみてください。
Answer (3)
卒業式の袴姿に合わせる着物と一般的な紋の数を
格式の高い順番に並べると、以下のようになります。
着物の「TPO」について
Question (4)
学校での立場に応じた着こなしを具体的に知りたい!
卒業式の場合、学校のトップを務める校長先生が正礼装、その補佐役である教頭先生が準礼装というのが主流のようです。またクラス担任の先生方は、学校における立場を考慮して、校長先生や教頭先生よりも格高にならないよう装うのが一般的。ですので、厳粛な卒業式とは言え、和装の場合も立場を踏まえた着こなしが求められます。また、和装には既婚・未婚によって着用できる着物とそうでない着物があります。さらに、卒業式はあくまで卒業生が主役ですので、先生方は主役より目立つような装いは避けるべきと言えます。これらのことを考慮して、おすすめの着物をご紹介します。
校長先生の場合は学校を代表する立場ですので、正礼装で臨む場合は、五つ紋の色留袖で上品で落ち着いた色合いのものを選ぶと良いでしょう。学校の規律や校風などにもよるので、あまり格式張らない場合は準礼装となる三つ紋や一つ紋の色留袖という選択肢もあるでしょう。
教頭先生の場合は、校長先生よりも格を控えた方が良いので、一つ紋の色留袖もしくは三つ紋か一つ紋の色無地あたりが無難かと思いますが、校長先生の装いを確認した上で選定してください。色合いはやはり落ち着いたものがおすすめです。
クラス担任の先生などは、一つ紋の色無地または無紋の小振袖、訪問着、色無地が良いと思われますが、小振袖は未婚女性が着用する着物なので、その点をご注意ください。また、小振袖と訪問着はさまざまな柄つけのものもありますが、派手な印象を与えるものや、明らかにおしゃれ着のような柄の場合は避けた方が無難です。柄は比較的少なめで上品なもの、色は落ち着いたトーンのものを選ぶと良いでしょう。
また、合わせる袴については、オーソドックスな単色のものが無難かと思います。グラデーションのものや、刺繍があしらわれたものなどを合わせる場合は、シンプルで上品なものを選ぶようにしましょう。
ただしどの立場の場合も、学校独自のルールや校風、地域の慣習などが関係してくるので、それらをよく知っている先輩や上司の先生にきちんと確認をしてから選ばれることをおすすめします。
Answer (4)
立場別おすすめの着こなし例です。
それぞれの立場と格式の全体のバランスを見た上で選定してください。
また学校独自のルールや校風、地域の慣習なども事前に確認しましょう。
着こなしの「ルール」について
Question (5)
小物のコーディネートは、好きなようにしていいの?
礼装として正式に装う場合、着こなしのルールとして気を付けなければならないのは、着物の格だけではありません。着付けに必要な、長襦袢や半衿、重ね衿といった小物類、足元のコーディネートにも決まったルール、TPOによる着こなしがあります。
長襦袢は肌着(肌襦袢/はだじゅばん)の上、着物の下に着用する着物で、通常は着物の衿が汚れるのを防ぐための半衿を付けて使用します。淡い色のついた無地のものや、地紋の入った生地にぼかし染めが施されたものなど、バリエーションがありますが、礼装の場合には白無地の長襦袢に正絹の白い半衿を付けて使用するのが基本です。
また重ね衿は、小振袖、訪問着、色無地を着用する場合に使用します。色や柄は、着物に合わせてコーディネートしますが、先生の礼装としてはあまり派手な印象にならない、控えめなものが良いでしょう。なお、紋の入った色無地を着用する際は、重ね衿は白にして格調高く装うと良いでしょう。
足元は、草履が基本です。袴にブーツというコーディネートもよく見かけますが、先生の礼装としては草履の方がふさわしいと言えるでしょう。また、草履の場合には必ず足袋を履きますが、柄や刺繍の入ったデザインではなく、白足袋をおすすめします。
Answer (5)
礼装なので、長襦袢と半衿は白無地なら間違いなし。
重ね衿は、派手すぎない控えめなものがおすすめ。
足元は、白足袋と草履が正統派の組み合わせ。
先生向けの「髪型」と「メイク」について
Question (6)
髪型はどんなスタイルがいいの?気を付けるべきことは?
袴は、卒業式という改まった場面で身につける礼装ですので、髪型も、その礼装に見合ったきちんと感や華やかさを意識して整える必要があります。ですが、卒業式の主役はあくまで生徒たち。先生はその主役を見送る側なので、華美な印象にならない、シンプルで控えめな髪型が好ましいでしょう。髪飾りも大ぶりなものや派手なものなど目立ち過ぎるものは避け、清楚な印象のものを選ぶようにしましょう。ロングヘアの場合は、和装における基本的な髪型であるアップスタイルですっきりまとめると良いでしょう。
卒業式ではお辞儀をする機会が多いので、その度に髪を直さなくて良い髪型をおすすめします。また、学校や地域ごとの慣習もあるので、まわりの経験豊富な先生にNG事項について事前に確認しておくのが安心です。
Answer (6)
主役ではないので、少し控えめなスタイルに。
髪型も髪飾りもすっきりシンプルな雰囲気がおすすめ。
Question (7)
メイクはいつも通りで大丈夫?気を付けるべきことは?
髪型と同様に、主役より目立つような華美なメイクは控えなければなりませんが、いつもより少しだけ華やかに仕上げるよう心がけてください。薄化粧だと、衣装の華麗さに釣り合わず、寂しく見えることもあるため、全体のバランスを見て、晴れの場にふさわしいメイクに仕上げることが必要です。
ただし、肌質をパールやラメでキラキラさせる、まつ毛をボリューミーに盛る、唇をグロスでテカテカにするといったパーティメイクはNG。確かに華やかには見えるかもしれませんが、和装とはミスマッチでアンバランスになってしまいます。メイクは、一度仕上げてしまうと、そこからの引き算は困難。髪型と同様にメイクに関しても、経験のある先生にNG項目や注意点を聞いておきましょう。
Answer (7)
衣装に見合った華やかさのあるメイクに。
ただし、パーティメイクはミスマッチなので要注意。
最後に
卒業式は、先生にとっても特別な学校行事。普段の服装とはガラリと雰囲気の違う袴を身につけ、髪型やメイクも袴に似合うように仕上げて式典に臨む先生方の心には、大事な生徒が巣立っていく特別な日だからこそ、自身も特別な出で立ちで見送ってあげたいという想いがあるのだと思います。
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