卒業式は生徒にとっても先生にとっても大切な節目の日。先生は、生徒たちの門出を晴れやかな気持ちで見送れる服装で臨みたいものです。ブラックフォーマル、セレモニーフォーマルと呼ばれる礼装用のスーツスタイルはよく着られますが、清々しさと華やかさを併せ持つ袴スタイルもおすすめ。ただし、卒業式の主役はあくまで生徒なので、先生の場合はやや控えめに装うなど、注意すべきポイントがあります。そこでここでは、先生の式服としてふさわしい基本の袴スタイルをご紹介します。
※袴の着こなしは、地域や学校によっても風習が異なりますので、こちらはあくまでも参考に、ご自身らしい装いをなさってください。
(※この記事は2016年6月13日に公開したものを加筆修正しました。)
先生の正統派の袴スタイル
袴は、振袖や留袖などの他の着物と違い、上半身に着物、下半身に袴を組み合わせて着るものです。そのため、色柄のマッチングなど上下のコーディネートをよく考える必要があります。また、着物は種類によって「格」の高さが異なるため、着用する方の立場も考慮する必要があります。これらに関しては、基本的なルールを押さえておかないと恥ずかしい思いをするケースがあるので、袴を着てみたいと考えておられる先生は、次のことを参考になさってください。
先生が注意したい「袴の色やデザイン」について
先生が着られる袴の場合、色やデザインはシンプルで落ち着いた印象のものがおすすめです。その理由は、卒業式は生徒が主役となる行事だから。先生は、言うならばバイプレイヤーの立場。なので、服装のマナーとしては主役よりも控えめにするのが正解と言えます。
色については、シンプルな単色がおすすめです。目を引きやすいビビッドな色よりも、落ち着いたトーンのベーシックな色が良いでしょう。例えば、紺、紫、黒、深緑、エンジなどは先生の袴の定番色です。定番色以外の色でも、着物と組み合わせた時に派手な印象がなく、清楚にまとまっていればOKです。
なお、グラデーションやぼかしの入った袴もありますが、これらの袴を選ぶ場合、色のトーンが激しいもの、柄や刺繍が大胆に施されたものは華美な印象を与えかねないので避けた方が無難でしょう。
袴に合わせる着物の種類
卒業式に袴を着る場合、合わせる着物は何でもいい訳ではありません。卒業式は学校行事の中でも特に重要な節目の式典。普段の学校生活とは異なる改まった場面のため、礼装と言われる格式の高い装いで臨む必要があります。つまり、合わせる着物も礼装に値する格の高さが必要とされるのです。
具体的に例をあげると、色無地、訪問着、小振袖あたりがふさわしい着物と言えるでしょう。これらは全て礼装に該当し、十分な格を備えています。なお礼装には段階があり、格が高い順に「正礼装」「準礼装」「略礼装」となります。
このうち、どの装いがふさわしいのかは、当事者の立場によって異なります。また同じ着物であっても、入っている紋の数によって格の高さが変わります。そのため、選ぶ際はそれらも考慮に入れる必要があります。さらに、袴を選ぶ場合と同様に、色柄の選び方にも注意しなければならない点があります。そう聞くと、難しくて分からない…と感じるかもしれませんが、以下に詳しく解説しますのでぜひ参考になさってください。
色無地について
色無地は、生地全体を一色に染めた、柄のない無地の着物です。通常、明るく華やかな色は吉事に、暗く沈んだ色は凶事に用いられます。未婚/既婚、年代を問わず着用できる着物で、紋の数や合わせる帯により格が変わることから幅広い場面で着用できます。
色無地の「格」について
色無地は無紋で着ることも多いですが、格高に装えるよう三つ紋や一つ紋を入れる場合もあります。ひとつでも紋を入れると無紋の訪問着より格上となり、三つ紋の入った色無地は、一つ紋の訪問着より格上となります。そのため、学校のトップを務める校長先生、その補佐役である教頭先生など、学校での役職が高い立場の先生は、紋のある色無地を活用されると良いでしょう。クラス担任の先生は、格を控えて無紋の色無地を選ばれると良いでしょう。
色無地の「色」について
色無地には、実にさまざまな色のバリエーションがあります。柄のない無地の着物なので、どんな色でも比較的すっきり端正な印象で着こなせます。先生の立場で考えると、彩度の高いビビッドな色は目を引きやすいので避ける方が無難ですが、パステル調などの淡いトーンの色は穏やかで落ち着いた印象になるのでおすすめです。
色無地×袴のスタイルについて
先述したとおり、色無地はすっきり端正に着こなせる着物なので、単色のシンプルな袴を合わせれば、落ち着いた印象のコーディネートになります。言うなれば、卒業式に臨む先生の正統派スタイル。実際、多くの先生に支持されており、格と色の選び方さえ注意すれば、失敗のないスタイルと言えるでしょう。
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訪問着について
訪問着は、色無地と同様に未婚/既婚、年代を問わず着用できる着物です。また、活用の場面も幅広く、紋の有無や合わせる帯の格式などにより、フォーマルな場面でも、ややカジュアルな場面でも着用できます。
訪問着の「格」について
訪問着は、礼装の格の高さで言うと、準礼装または略礼装にあたります。豪華な柄行の訪問着の場合は、改まった場にふさわしい格になるよう紋を入れることもありますが、ややカジュアルな場面でも対応できるよう、紋をあえて入れないことが多いようです。紋がなければ略礼装にあたるので、クラス担任の先生は無紋の訪問着を選ばれると良いでしょう。ただし、役職の高い校長先生や教頭先生には不向きです。
訪問着の「色・柄」について
色無地とは対照的に、訪問着には全身に柄が描かれています。またその柄は、縫い目をまたいで、まるで1つの絵のように美しくつながっているのが特徴です。(これを絵羽模様と言います)柄のデザインは、伝統的な古典柄から現代的なモダン柄まで実に多彩で、色のバリエーションも多種多様なので、選ぶ際に迷うことが多いかもしれません。
ですが先生の立場で考えると、色無地と同じように、落ち着いた印象の色を選ぶのがベターです。また、柄についても目を引きやすい大胆な柄は避け、上品で繊細な雰囲気の小花柄、古典柄などが良いでしょう。金糸・銀糸を使った刺繍、金彩加工などが施されたものは、華美な印象になるので避けるのが無難です。
なお、訪問着は全身に柄が入った着物ですが、袴を合わせる場合、その柄は上半身しか見えません。全体の印象で柄を選ぶと、袴を合わせた時に雰囲気が違って見えることがあるので、柄を選定する際は左肩から胸元にかけてと袖の部分を確認するようにしましょう。
訪問着×袴のスタイルについて
訪問着はデザインのバリエーションが非常に幅広いので、自分のイメージや理想に近いものが見つかりやすいと言えるかもしれません。袴と合わせた場合も、自分らしいコーディネートが楽しめそうです。見た目の印象やボリュームにも寄りますが、柄のある着物なので袴はできるだけシンプルなものを合わせて、主役を引き立てる控えめなスタイルを目指せば大きな失敗はないでしょう。
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小振袖について
小振袖は、振袖の種類のひとつです。実は振袖には、大きく分けると大振袖、中振袖、小振袖という種類があり、袖の「振り」と呼ばれる部分の長さが異なります。長い順に、大振袖、中振袖、小振袖となり、大振袖は結婚式の花嫁衣装、中振袖は成人式衣装、小振袖は卒業式衣装に用いられるのが一般的です。基本的には、着用できるのは未婚女性と決まっています。
小振袖の「格」について
振袖は、礼装の格の高さで言うと、最も高い正礼装にあたります。紋を入れた振袖もありますが、なくても正礼装とされることから、無紋のものが多いようです。振りが長いほど格も高いとされており、振りがいちばん短い小振袖は最も格下。そのため大振袖、中振袖よりも、もっと気軽な礼装という位置付けで、訪問着と同等の格と捉えられることが多いようです。そういう理由から、着用ルールも訪問着と同じく未婚/既婚は問われないようです。先生の立場で言えば、クラス担任など、校長先生や教頭先生よりも格を控えた方が良い先生向きの着物と言えます。
小振袖の「色・柄」について
振袖の柄は、訪問着と同じように縫い目をまたいで一つの絵のようにつながる絵羽模様で描かれます。ただし、小振袖の場合は絵羽模様の他に、同じ模様を繰り返しパターン化して描く小紋柄の場合もあります。訪問着と比べると、柄の占める割合が多いケースもあり、着物の地色によっては柄の多さと相まって、かなり華やかな印象になります。また、カジュアルな柄の場合は、女子学生のような印象になってしまうケースも考えられます。厳かな式典の衣装としてはNGとされることもあるため、職場の規律や風習を確認した上で選ぶようにしてください。
小振袖×袴のスタイルについて
小振袖は華やかな雰囲気を持つ着物なので、合わせる袴はできるだけシンプルなものを選ぶのが、先生にふさわしい控えめな装いに仕上げるコツとなるでしょう。なお、小振袖は袖が短いため、活動的な印象で着こなせ、軽くて動きやすいことが魅力です。先生方は、卒業式の日もやるべき業務が多くあると思いますので、その点で、小振袖×袴スタイルは非常に向いていると言えるかも知れません。
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袴スタイルの基本のコーディネートについて
袴スタイルは、着物と袴の組み合わせで完成しますが、この時の色合わせを「同系色」にする、または「反対色」にするのが、コーディネートの基本とされています。つまり、この考え方で組み合わせれば、ほぼ失敗はないということです。
また、足元は和装の原則とされる草履が好ましく、足袋は礼装用の白足袋を合わせましょう。袴にブーツを合わせる「ハイカラさん」スタイルもモダンで素敵に見えますが、正式な礼装のスタイルではないので避ける方が無難です。
すっきり上品な「同系色」コーデ
同系色コーデとは、水色の着物に紺色の袴、エンジ色の着物にピンク色の袴といった組み合わせです。全体がすっきりと調和し、上品で落ち着いたコーディネートになります。この場合、暖色系だと柔らかな印象に、寒色系だと凛とした印象に見えます。ワントーンコーデのようなシンプルなスタイルを好まれる方は、同系色コーデがしっくりくるかも知れません。また、すっきりとした印象になるので、先生向けの派手さを控えたコーデと言えるでしょう。
メリハリのある「反対色」コーデ
反対色コーデとは、オレンジ色の着物に紺色の袴、紫色の着物に黄色の袴といった組み合わせです。全体にメリハリが生まれ、快活なコーディネートになります。お互いの色が強調され合うため目を引きやすいので、先生として節度ある装いになるよう、柄の種類や分量の選び方に注意して、過度に派手な印象にならないようにしましょう。
なお、上下の色の種類の他に、色のトーンなどもコーディネートを上手くまとめるポイントになるので、以下のページも参考にしてください。
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先生のヘアスタイルとメイクについて
ヘアスタイルはできるだけシンプルで、清楚な髪型が望ましいでしょう。ロングヘアであればアップスタイルにしてすっきりまとめると、袴姿がキリッと引き立ちます。卒業式は、お辞儀をする機会が多いので、その度に髪を直さなくて良い髪型にするのもポイントのひとつです。また、髪飾りをつける場合は数を控えめにし、小ぶりで派手すぎないデザインのものがおすすめです。
メイクはいつもよりちょっと華やかな程度が、生徒たちの門出を祝う立場の先生にはふさわしいでしょう。薄化粧だと、寂しく見えることもあるので、全体のバランスを見ながらメイクを仕上げてください。ただし、パーティメイクのように肌質をパールやラメでキラキラさせる、まつ毛をボリューミーに盛る、唇をグロスでテカテカにするのはNG。いくら華やかに見えても和装とはミスマッチで、アンバランスになるので注意してください。