普段より厳かな袴姿で卒業式に臨み、立派に巣立っていく生徒たちを見送ってあげようと考えている先生に、ぜひ押さえておいていただきたい着こなしのマナーをご紹介します!TPOをわきまえない不適切な着こなしで、当日に恥ずかしい思いをしないよう、袴選びの参考にしてください。

 

着物の「種類」について

先生の卒業袴_質問01

日頃から和装に慣れ親しんでいる方は別として、そうではない多くの方にとって、TPOに応じた着物の選び方はちょっと難しい問題かもしれません。実際、袴のレンタルカタログやWebサイトを見てみると、多種多様なデザインの着物があり、「好みのものを選べばいいんだ!」と思ってしまうのも無理はありません。

ですが、着物には柄づけの違いによる「種類」があり、それぞれに「格」というものが存在します。大きく分けると、式典や儀式のような改まった場で着られるフォーマル着物と、お友達同士の集まりやショッピングなどのお出かけといった日常の場で着られるカジュアル着物に分けられますが、卒業式のような学校行事の中でも特に厳粛な場では、カジュアル着物はふさわしくありません。ですので、着物なら何を着てもOKという訳にはいかないのです。

卒業式に臨まれる先生の場合、袴姿に合わせる着物の格としては正礼装~準礼装にあたるものが良いでしょう。具体的な種類で言うと「色留袖」「振袖(小振袖)」「訪問着」「色無地」といったあたりです。このうち、振袖は未婚女性が着る正礼装です。また、袖丈の長さにより大振袖、中振袖、小振袖に分類されますが、卒業式の場合は二尺袖とも呼ばれる一番袖丈が短い小振袖が一般的です。大振袖は婚礼衣装、中振袖は成人式衣裳としてよく着られるもので、厳かな卒業式には華やか過ぎてしまいますので避ける方が無難と言えるでしょう。

先生_小振袖と袴  先生_訪問着と袴  先生_色無地と袴

先生の卒業袴_答え01

 

 

着物の「紋」と「格」について

先生の卒業袴_質問02

大多数の人が、背中や胸の部分に紋(家紋)が付いた着物を見たことがあるかと思います。ただ、紋が付いた着物は格式が高く、フォーマルな場面向きという認識はあっても、それ以上はよく分からない…という人が多いのではないでしょうか。

紋は、一つ紋、三つ紋、五つ紋の3通りがあり、入れる位置と数が決まっています。背面の中央上部に背紋が入っているものが一つ紋、それに加えて両後ろ袖に袖紋が入っているものが三つ紋、さらに両胸に抱き紋(胸紋)が入っているものが五つ紋です。そして紋の数が多いほど格は高くなり、より改まったフォーマルな場面にふさわしいものになります。ですが、紋は何にでも入れれば良い、多ければ良いという訳ではなく、着物の格に合わせて入れるものです。例えば、最も格の高い正礼装には五つ紋を入れますが、それに次ぐ格の準礼装に入れるのは三つ紋か一つ紋、その下位の略礼装には入れても一つ紋です。

先の段落でご紹介した、袴に合わせる着物を格の高い順番に並べると、色留袖、小振袖、訪問着、色無地となります。中でも色留袖は最も格が高く、比翼仕立てにして五つ紋を入れることができます。ですが、幅広い場面で着られるように、あえて三つ紋や一つ紋にする場合もあります。小振袖や訪問着は、柄つけの豪華さから紋を入れなくても正装、盛装と認められるため、省略するのが一般的ですが、背紋の周辺に柄がなく紋を入れて映えるのであれば、一つ紋にする場合もあります。色無地は、その名の通り柄のない無地の着物で、無紋で着ることも多いですが、三つ紋や一つ紋を入れて格高に装う場合があります。1つでも紋を入れると、無紋の訪問着より格上になり、三つ紋の色無地は一つ紋の訪問着より格上になります。

卒業式に袴姿で臨む際、その人の立場によって格式高く装う必要がある場合があるかと思いますので、着物の種類と紋の数の参考にしてみてください。

先生の卒業袴_答え02

 

 

着物の「TPO」について

先生の卒業袴_質問03

卒業式の場合、学校のトップを務める校長先生が正礼装、その補佐役である教頭先生が準礼装というのが主流のようです。またクラス担任の先生方は、学校における立場を考慮して、校長先生や教頭先生よりも格高にならないよう装うのが一般的。ですので、厳粛な卒業式とは言え、和装の場合も立場を踏まえた着こなしが求められます。また、和装には既婚・未婚によって着用できる着物とそうでない着物があります。さらに、卒業式はあくまで卒業生が主役ですので、先生方は主役より目立つような装いは避けるべきと言えます。これらのことを考慮して、おすすめの着物をご紹介します。

校長先生の場合は学校を代表する立場ですので、正礼装で臨む場合は、五つ紋の色留袖で上品で落ち着いた色合いのものを選ぶと良いでしょう。学校の規律や校風などにもよるので、あまり格式張らない場合は準礼装となる三つ紋や一つ紋の色留袖という選択肢もあるでしょう。

教頭先生の場合は、校長先生よりも格を控えた方が良いので、一つ紋の色留袖もしくは三つ紋か一つ紋の色無地あたりが無難かと思いますが、校長先生の装いを確認した上で選定してください。色合いはやはり落ち着いたものがおすすめです。

クラス担任の先生などは、一つ紋の色無地または無紋の小振袖、訪問着、色無地が良いと思われますが、小振袖は未婚女性が着用する着物なので、その点をご注意ください。また、小振袖と訪問着はさまざまな柄つけのものもありますが、派手な印象を与えるものや、明らかにおしゃれ着のような柄の場合は避けた方が無難です。柄は比較的少なめで上品なもの、色は落ち着いたトーンのものを選ぶと良いでしょう。

また、合わせる袴については、オーソドックスな単色のものが無難かと思います。グラデーションのものや、刺繍があしらわれたものなどを合わせる場合は、シンプルで上品なものを選ぶようにしましょう。

ただしどの立場の場合も、学校独自のルールや校風、地域の慣習などが関係してくるので、それらをよく知っている先輩や上司の先生にきちんと確認をしてから選ばれることをおすすめします。

先生の卒業袴_答え03

 

 

着こなしの「ルール」について

先生の卒業袴_質問04

礼装として正式に装う場合、着こなしのルールとして気を付けなければならないのは、着物の格だけではありません。着付けに必要な、長襦袢や半衿、重ね衿といった小物類、足元のコーディネートにも決まったルール、TPOによる着こなしがあります。

長襦袢は肌着(肌襦袢/はだじゅばん)の上、着物の下に着用する着物で、通常は着物の衿が汚れるのを防ぐための半衿を付けて使用します。淡い色のついた無地のものや、地紋の入った生地にぼかし染めが施されたものなど、バリエーションがありますが、礼装の場合には白無地の長襦袢に正絹の白い半衿を付けて使用するのが基本です。

また重ね衿は、小振袖、訪問着、色無地を着用する場合に使用します。色や柄は、着物に合わせてコーディネートしますが、先生の礼装としてはあまり派手な印象にならない、控えめなものが良いでしょう。なお、紋の入った色無地を着用する際は、重ね衿は白にして格調高く装うと良いでしょう。

足元は、草履が基本です。袴にブーツというコーディネートもよく見かけますが、先生の礼装としては草履の方がふさわしいと言えるでしょう。また、草履の場合には必ず足袋を履きますが、柄や刺繍の入ったデザインではなく、白足袋をおすすめします。

先生の袴姿_着こなし01 先生の袴姿_着こなし02

先生の卒業袴_答え04