2020年に開催される東京オリンピック、パラリンピック。そのエンブレムは皆さんもよく目にされているかと思いますが、実は伝統的な和の文様である「市松」がモチーフとして使われていることをご存知でしょうか?市松文は、着物や帯、小物など和装に幅広く使われる図柄です。そこで今回は、その市松文について詳しくご紹介したいと思います。

 

市松文ってどんな図柄のことを指すの

ひとつの文様が規則的に繰り返し配置された抽象的な文様を「幾何文様」と云いますが、市松文もそのひとつです。幾何文様は端正な図柄が多いのですが、中でも市松文は正方形だけで構成された実にシンプルな図柄です。

見た目としては、色違いの折り紙を交互に隙間なく敷き詰めたような感じで、馴染みのある表現で言い換えると、いわゆるチェック柄です。昔は「霰(あられ)」や「石畳」とも呼ばれたそうですが、江戸時代からは、とある理由で「市松」と呼ばれるようになりました。

図柄そのものはかなり古くから使われていたもので、特に細かい正方形で構成された霰文は平安時代の装束や調度品の地紋に多く使われたそうです。また、それ以降も服飾や工芸、建築など幅広く取り入れられてきました。

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「市松」と呼ばれるようになった所以は…?

市松文が霰文や石畳文と呼ばれていたことは先述しましたが、ではなぜ市松に呼び名が変わってしまったのでしょうか?これには、江戸時代に絶大な人気を博した歌舞伎役者が関わっています。その役者の名前は、佐野川市松。江戸中期に活躍し、その容姿の美しさから浮世絵にもよく描かれている役者です。

1741年(寛保元年)、この佐野川市松が江戸・中村座での興行「心中万年草」で主人公、粂之助役を演じると大当たりを。その役で衣装として身に着けていた袴が石畳文だったことから、市松贔屓の女性ファンたちが自分の着物などにも取り入れて大いに流行したそうです。これが、石畳文が市松文と呼ばれるようになった所以とされています。

ちなみに、市松が衣装で着ていた石畳文の袴は白と紺の配色だったそうです。そして東京オリンピック、パラリンピックのエンブレムも同じ配色。偶然なのかもしれませんが、何か不思議な縁を感じてしまいますね。

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市松文のさまざまなバリエーション

市松文は正方形の色の組合せを変えたものが無数にあり、青色と水色のように同系色を使ったもの、青色と黄色のように反対色を使ったものなど、同じ市松文でも使われる色によって見た目の印象が変わります。また、正方形のサイズが大きいものや小さいもの、正方形の辺の境目をぼかしたもの、辺の長さを変えて長方形にしたものなど、形のパターンも多様です。これは市松文がシンプルであるからこそ出来るアレンジと言えるでしょう。

また、正方形の中に様々な文様が配された遠州緞子(えんしゅうどんす)や石畳金襴 (いしだたみきんらん) といった織物が古くからあり、これらは緻密にデザインを凝らした市松文といった見た目です。

市松文はシンプルでアレンジが利くことから、さまざまなモチーフと組み合わせたり、正方形の中に柄や模様を加えるなど、現代の着物の柄にも取り入れられており、多種多様なデザインバリエーションが見られます。

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和風なのにモダンに見える市松文の袴スタイル。

市松文は平安時代から着物や帯などに使われてきましたが、現代でも身の回りのさまざまなモノに使われている図柄です。また、ギンガムチェックやブロックチェックといったチェック柄にも近いことから、どこかポップな印象も受けます。伝統的な「和」のテイストでありながら、現代風の「モダン」なイメージも併せ持つ、不思議な魅力があるのが市松文の特徴と言えるのではないでしょうか。また、市松文は正方形の色使いやサイズの大小、他のモチーフとの組合せで印象がガラリと変わるもの。どんなタイプの市松文を選んでどんな雰囲気の袴スタイルに仕上げるか、自分の個性を発揮するコーディネートを考える楽しさがあるのも魅力かもしれませんね。

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